世界のゆらぎが私のいる小さな職場にも届いて、うかうかしているとただ流されるだけになってしまいそうです。道を乞う・・・・・・などと書くと、おふたりに叱られそうですが、この混沌の時代に遭遇して正直な気持でした。
心情的左翼だった自分が、経済繁栄と社会主義国の没落で自動的に転向し、続出する理想のない現実主義者の仲間だけはなりたくありませんでした。自分がどこにいるのか、今この世界でどう選択して生きていくべきか、おふたりなら教えていただけると思いました。
(中略)
恥をかくというつもりはなかったのですが、残念なのは自分の力不足です。日頃、言葉の定義をあいまいにして来たむくいでもあります。もっとつっこむべき瞬間を、何度も私は逃しました。立ちどまって考えている間に、会話は次へ進んでいったりしました。
忘れられないのは、
「人間は度し難い」
と司馬さんがおっしゃった瞬間でした。堀田さんが坐りなおしつつ、
「そうだ。人間は度し難い」
と応えたのです。大きな元気な声でした。
(中略)
私事で申し訳ありませんが、死んだ母のことを思い出していました。
「人間はしかたのないものだ」というのが彼女の口癖で、若い私と何度も激しくやりとりしたのです。戦後の文化人の変節について彼女が語るとき、不信のトゲは何かいたたまれないものがありました。
(中略)
もっと長いスタンスで、もっと遠くを見る目差しが欲しいとつくづく思います。
・出典
時代の風音/宮崎駿、堀田善衛、司馬遼太郎、あとがき 宮崎駿、p270~272
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