2015年1月23日金曜日

いなほ保育園の「放ったらかし」 ほぼ日刊イトイ新聞/糸井重里、鈴木敏夫

「いなほ保育園」というところがあるんですけど、この園長さんが非常におもしろいということで、ぼくは会いにいったことがあるんです。

この保育園の最大の特徴は「ぜんぶ、放ったらかしにすること」なんです。

それで何をやらせようとしているかというと……「子どもがバランスよく立って歩くこと」なんだそうです。

3歳児や4歳児の子どもは、走ったり歩いたりするとき、前のめりか後ろのめりになっていますよね。それをバランスよく立てるようになるためには、外に出て、いろんなことをしないといけないんです。ところが今の子どもたちの特徴は、少子化で「いろんなことをする」という機会をうばわれているんです。

「いなほ保育園」は、どんなにあぶない状況になっても、誰も何も先まわりして危険に近づかないようにはしない。ケガをしようが何をしようが放っておくんです。

だけど、そこを通過した子たちは、全員が違う立ちかたになるんです。それぞれなりのバランス感覚を持つんですよ。実際に保育園に見にいくと、本来子どもというのは、こんなに元気でエネルギーを持っているものなんだ、ということが思い知らされますね。

でかい敷地で自由闊達にやらせているんですけど、冬に焚き火をして魚を焼くと、3歳や4歳の子どもたちが、頭からガブッと食べるんですよね。すごい。

現代では珍しいぐらい、みんなが青っ洟を平気でたらしていました。あの保育園に立っていると、タイムスリップしたみたいな気分になるんです。子どもたちも元気で、みんな、ものすごく敏捷だし……昔の子は、当時は子どもが多かったせいか、放ったらかしにされていただけなんだけど、みんながそういう経験をふつうに通過してるんです。

乱暴者の問題児も、親ごと近所に引っ越してその保育園に入れると、もっと元気になるんですよ。いろんな意味で注目されている保育園なんですけど。

「でも、ここを終わって小学校へ行ったら、みんな、学習してダメになっちゃうんじゃないですか?」園長さんにそう聞いたら、そんなことはありえないんだそうです。子どもの基礎ができるのが3歳から4歳なんだから、と……。

ほんとにおもしろい場所でした。ああいうところに行くと、人間の動きの基本がわかるから、いろんなアニメーターに「あそこに行っておいたほうがいいと思う」と言うんですけどね。

・出典
ジブリの仕事のやりかた。宮崎駿・高畑勲・大塚康生の好奇心。
http://www.1101.com/ghibli/2004-07-28.html

・関連場所
ほぼ日刊イトイ新聞
http://www.1101.com

スタジオジブリ-STUDIO GHIBLI
http://www.ghibli.jp

・関連書籍
いなほ保育園、北原和子さん


糸井重里さん
  

鈴木敏夫さん

0 件のコメント:

コメントを投稿