「いなほ保育園」というところがあるんですけど、この園長さんが非常におもしろいということで、ぼくは会いにいったことがあるんです。
この保育園の最大の特徴は「ぜんぶ、放ったらかしにすること」なんです。
それで何をやらせようとしているかというと……「子どもがバランスよく立って歩くこと」なんだそうです。
3歳児や4歳児の子どもは、走ったり歩いたりするとき、前のめりか後ろのめりになっていますよね。それをバランスよく立てるようになるためには、外に出て、いろんなことをしないといけないんです。ところが今の子どもたちの特徴は、少子化で「いろんなことをする」という機会をうばわれているんです。
「いなほ保育園」は、どんなにあぶない状況になっても、誰も何も先まわりして危険に近づかないようにはしない。ケガをしようが何をしようが放っておくんです。
だけど、そこを通過した子たちは、全員が違う立ちかたになるんです。それぞれなりのバランス感覚を持つんですよ。実際に保育園に見にいくと、本来子どもというのは、こんなに元気でエネルギーを持っているものなんだ、ということが思い知らされますね。
でかい敷地で自由闊達にやらせているんですけど、冬に焚き火をして魚を焼くと、3歳や4歳の子どもたちが、頭からガブッと食べるんですよね。すごい。
現代では珍しいぐらい、みんなが青っ洟を平気でたらしていました。あの保育園に立っていると、タイムスリップしたみたいな気分になるんです。子どもたちも元気で、みんな、ものすごく敏捷だし……昔の子は、当時は子どもが多かったせいか、放ったらかしにされていただけなんだけど、みんながそういう経験をふつうに通過してるんです。
乱暴者の問題児も、親ごと近所に引っ越してその保育園に入れると、もっと元気になるんですよ。いろんな意味で注目されている保育園なんですけど。
「でも、ここを終わって小学校へ行ったら、みんな、学習してダメになっちゃうんじゃないですか?」園長さんにそう聞いたら、そんなことはありえないんだそうです。子どもの基礎ができるのが3歳から4歳なんだから、と……。
ほんとにおもしろい場所でした。ああいうところに行くと、人間の動きの基本がわかるから、いろんなアニメーターに「あそこに行っておいたほうがいいと思う」と言うんですけどね。
・出典
ジブリの仕事のやりかた。宮崎駿・高畑勲・大塚康生の好奇心。
http://www.1101.com/ghibli/2004-07-28.html
・関連場所
ほぼ日刊イトイ新聞
http://www.1101.com
スタジオジブリ-STUDIO GHIBLI
http://www.ghibli.jp
・関連書籍
いなほ保育園、北原和子さん
糸井重里さん
鈴木敏夫さん
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