司馬 世界で、いちばん公害問題で地球規模で心を痛めているのは、オランダでしょう。真の意味での先進国だと思います。つまり二酸化炭素が増えれば地球があったかくなって、北極の氷などが融けて海面の水位が上がればオランダは水没して国がなくなります。
オランダはゼロメートルのところが総面積の四分の一以上ありますでしょう。ですから、先祖代々、紀元前一世紀のシーザーによるローマ軍の侵入のころから営々としてダムをつくり、海面を干拓し、やっとここまできたのに、二酸化炭素の増加で地球が温暖化すれば、水面下の国になる。それはかなわないので自動車の排ガスを世界的になんとか規制しましょう、と言っている。でも、日本もアメリカもいい返事をしない。
だから、オランダの提言が新しい文明の主題となるときが数年後にくると思うんです、抑制こそ文明だという時代が。
堀田 環境関係の会議は、たいていオランダで開かれます。ハーグか、アムステルダム、ライデン。しかもしょっちゅうやっています。国際的な人を集めて、あの人たちは必死ですね。
司馬 必死です。いま私らはオランダ人に学ぶことは二つあります。
一つは土地問題です。オランダの土地はほとんど国有地で、その上に産業が乗っかっている。地代を国に払っているだけです。たとえばアムステルダムで最近できた日本人学校は、国から敷地を借りました。日本の小学校と同じ規模の校庭があって、地代は年に一ギルダー、七◯円ほどです。
二つめは多民族国家になってしまったことです。戦後、植民地解放でインドネシア人がはいってきました。何人かに一人がカラードです。オランダの小学校教育の、かれらを差別するなという徹底ぶり。オランダ憲法下にいて、オランダ国籍のある人は、同じオランダ人、一ミリの違いもないオランダ人だ、と。なぜかというと、差別することによって後で反乱を起こされたら、オランダそのものが消える。
人間はみなものを考える力をもっているのに、政治に生かすことができない国が多いですね。それがオランダはうまくいった。だから、オランダというのを学びなおすという時代がきています。
・出典
時代の風音/宮崎駿、堀田善衛、司馬遼太郎、8 地球人への処方箋、オランダに学べ、p232~234
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結局、オランダのように自分の身に実害がないと、環境問題をどうにかしようとは思わないんでしょうね。とか、言っていると問題の解決にならないので、世の中では一生懸命、環境問題に取り組んでいる人がいるんでしょう。頭が上がりません。
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