新しくできた空き地に小さな雑草がたくさん生えている。
じつは、新しくできた環境は、強者がすぐに入り込めないニッチである。環境が破壊された不毛な土地は、土の表面が露出しているので土が乾燥しやすい。また、栄養分も少なく土地はやせている。けっして植物が生えるのに適した場所ではないのだ。
強者たる植物も、そんな場所ではとても実力を発揮することはできない。そんな不毛な土地こそが、弱い植物である小さな雑草の生存のチャンスの場なのである。
もともとあった自然が破壊された環境に、最初に生える植物は植物学では、「パイオニアプランツ(先駆種)」と呼ばれている。つまりは「開拓者」なのである。
先駆的なパイオニアが生える土地は、けっして恵まれてはいない。土は固く、根の成長を妨げる。水や栄養分も足りない。しかし、そんな環境でパイオニアプランツは成長を遂げていく。やがて、パイオニアプランツが根をはることで土は細くなり、通気性や保水性が改善されていく。また、枯死した茎や葉は分解されて肥料になり、土を豊かにしていく。そして、そこには次第に多くの昆虫や小生物が棲みつき、だんだんと豊かですみやすい土地になっていくのである。
しかし、不毛の土地を開拓したパイオニアたちは、そこに楽園を築くとはできない。このようなパイオニアプランツの繁栄は長くて数年である。パイオニアプランツが生存し、豊かになった土地には、次々と力のある植物が侵入してくる。そうなれば、競争に弱いパイオニアたちは追いやられてしまうのである。やがて緑に覆われ、生き物たちの楽園になった環境には、パイオニアたちの暮らすニッチはない。
先駆けるのたいへんなのは雑草も人間の変わらない。しかし、それで良いのだ。パイオニアたちは、すでに他の植物が入り込んだ土地には未練を残さず種を飛ばす。パイオニアプランツの種は風で移動するものが多い。そして、再び、新たな未開の大地に速やかに侵入してニッチとするのである。
それが強者に真似できないパイオニアの生き方である。まさに挑戦し続けることを宿命づけられているのだ。
もちろん、簡単ではない。しかし、他の植物が生えることができない、まっさらな大地に大いなる夢を描いて芽を出すパイオニアの生き方には、どこか美学も感じられる。そんな弱者の戦略である。
・出典
弱者の選択/稲垣栄洋、第四章 弱者必勝の条件、p95~97
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パイオニア。開拓者。先駆者。聞こえはいいが、厳しい生き方ですね。これを厳しいと思う私はパイオニアには向いていませんが、これを読んでかっこいいと思う方はパイオニア向きですね。
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