2015年1月24日土曜日

又八の自戒 宮本武蔵 (二)/吉川英治

 旅籠は、不経済と考えて、純系堀に近い馬具師の家に離れを借り、食事は外でし、見たいものを見、家へは帰ったり帰らなかったり、好みどおりな生活をしている間に、知己を得、手づるを見つけ、扶持の口にありつこうと心がけていた。
 この程度に、生活を持していることは、彼にとっては、かなり自戒を保って、生まれ変ったほど、身を修めているつもりなのである。
(中略)
(世の中というやつは、まるで石垣だ、きっちりと、使われる石は組んであって、後から入る隙はねえものだ)
(中略)
(なあに、蔓のみつからねえうちが、そう見えるんだ、うまく、割り込むまでが、難しいが、何かへ取ッついてしまえば)
 と思い直して、間借りしている馬具師のおやじへも、就職をたのんでおいた。
(中略)
 ありそうな口吻で、そこの馬具師も安うけあいしたが、就職はなかなかかかってこない。-そのうちに冬も十二月、ふところの金も半分になっていた。

・出典
宮本武蔵 (二)/吉川英治、幻術、p248,249

関連場所、商品

自分から節約と見えても、他人からはかなりの贅沢だったりするのだろう。何を自分の中で価値基準に置くかは大切だな。

0 件のコメント:

コメントを投稿