旅籠は、不経済と考えて、純系堀に近い馬具師の家に離れを借り、食事は外でし、見たいものを見、家へは帰ったり帰らなかったり、好みどおりな生活をしている間に、知己を得、手づるを見つけ、扶持の口にありつこうと心がけていた。
この程度に、生活を持していることは、彼にとっては、かなり自戒を保って、生まれ変ったほど、身を修めているつもりなのである。
(中略)
(世の中というやつは、まるで石垣だ、きっちりと、使われる石は組んであって、後から入る隙はねえものだ)
(中略)
(なあに、蔓のみつからねえうちが、そう見えるんだ、うまく、割り込むまでが、難しいが、何かへ取ッついてしまえば)
と思い直して、間借りしている馬具師のおやじへも、就職をたのんでおいた。
(中略)
ありそうな口吻で、そこの馬具師も安うけあいしたが、就職はなかなかかかってこない。-そのうちに冬も十二月、ふところの金も半分になっていた。
・出典
宮本武蔵 (二)/吉川英治、幻術、p248,249
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自分から節約と見えても、他人からはかなりの贅沢だったりするのだろう。何を自分の中で価値基準に置くかは大切だな。
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