2015年1月17日土曜日

ナマケモノの戦略 弱者の選択/稲垣栄洋

 ナマケモノとは「怠け者」の意味だから、ずいぶんとひどい名前をつけられたものである。
 しかし、その名にふさわしいほど、ナマケモノは動かない。何しろ一日二十四時間のうち、二十時間以上は眠っている。しかも動くスピードもじつにゆっくりである。わずか100メートルを移動するのに一時間も掛かるというから、相当にのろい。あまりに動かないので体にコケが生えるほどだという。
 他の動物たちはエサを求めて動き回り、敵から逃げ回っているというのに、どうしてこんなにものんびりとしていられるのだろうか。
 じつは、これもナマケモノの立派な戦略である。
 ナマケモノは南米に暮らしているが、そこではジャガーという肉食獣がいる。多くの生き物にとってジャガーは恐ろしい天敵である。何しろネコ科であるにもかかわらず水を怖がらない。水の中でも泳いで追いかけてくる。さらには木登りも得意だから、木に登って逃げようとしても俊敏なジャガーにすぐにつかまってしまう。南米のジャングルでは、ジャガーから逃れられる場所はないのだ。
 そこで、ナマケモノはジャガーに見つからないように、徹底的に動かない戦略に出たのである。ジャガーなどの肉食動物は動体視力は優れているが、木の葉の茂った中にいる動かない獲物を見つけることは得意ではない。さらには、ナマケモノの体に生えたコケも、身を隠すためには好都合である。
 しかし、ずっと動かずにいられるわけではない。何しろ生きていくためには、エサを探して食べなければならないのだ。
 ナマケモノの戦略はこうである。ナマケモノは毒のある木の葉をエサにしている。毒のある葉を食べる動物は他にはいない。そのため、必死にエサを探し回らなくても他の動物とエサを巡って争う必要がないのである。しかも、ナマケモノはほとんど移動しないでエネルギーの消費が少なく、食べる量もわずかでいい。まさに低コスト化に成功しているのである。
 それだけではない。さらに、ナマケモノは基礎代謝によるエネルギーの消耗を防ぐために、体温を維持せずに外気温に合わせて体温を変化させている。
 もっともっと、と活発に動きまわるだけが能ではない。動かず、目立たずに生き延びるナマケモノの戦略も、弱者の戦略としては秀逸なのである。


・出典
弱者の選択/稲垣栄洋、コラム3、p44,45

関連場所、商品

ナマケモノって怠けるために怠けたのではなく、生き残るために怠けたんですね。これも進化なんでしょう。ということは人間のナマケモノの進化してそうなったということですか? この考え方は再考してみる価値がありそうです。

0 件のコメント:

コメントを投稿