「ぼくの知ってある星に、赤黒っていう先生がいてね、その先生、花のにおいなんか、吸ったこともないし、星をながめたこともない。だあれも愛したことがなくて、していることといったら、寄せ算ばかりだ。そして日がな一日、きみみたいに、しそがしい、いそがしい、いそがしい、と口ぐせにいいながら、いばりくさっているんだ。そりゃひとじゃなくて、キノコなんだ」
「キノ・・・・・・?」「キノコなんだ」
王子さまは、もうまっさおになっておこっていました。
「花は、もうなん百万年も前から、トゲをつくっている。ヒツジもやっぱり、もうなん百万年も前から、花をたべている。でも、花が、なぜ、さんざ苦労して、なんの役にもたたないトゲをつくるのか、そのわけを知ろうというのが、だいじなことじゃないっていうのかい? ふとっちょの赤黒先生の寄せ算より、だいじなことなんじゃないっていうの? ぼくの星には、よそだとどこにもない、めずらしい花が一つあってね、ある朝、小さなヒツジが、うっかり、パクッとくっちまうようなことがあるってこと、ぼくが-このぼくが-知っているのに、きみ、それがだいじじゃないっていうの?」
王子さまは、そういって、こんどは、顔を赤くしましたが、やがてまた、いいつづけました。
王子さまはそれきり、なにもいえませんでした。そして、にわかに、わっとなきだしてしまいました。(中略)
涙の国って、ほんとうにふしぎなところですね。
・出典
星の王子さま/サン=テグジュペリ作 内藤 濯訳、6 p39~41
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