かぞえても幾人もない親類である。努めて、その人達をば、助けたり助けられたりして行きたいものと、彼のみは、思うのだった。
だが武蔵のそんな考え方は、実世間を知らない彼の感傷に過ぎない。若いというよりも、幼稚なほど彼はまだ、人間を観る目も、世の中を観る目も、そういう方にかけては、知ることの浅い青年に過ぎなかった。
彼のような考えは、彼が大いに名を成すか、富を得るかした後に考えるならば、少しも不当にはならないが、この寒空を、垢じみた旅着一枚で、しかも大晦日-たどり着いた親戚の家で考えたりすることではない。
その考えの間違っていた反証はやがてすぐ現われた。
(すこし休んでいけ)
と、叔母がいってくれたことばを力にして、彼は、空腹をかかえて待っていたが、宵から勝手元で煮物のにおいや器物の音がしていたにもかかわらず、彼の部屋にはなんの訪れもないのである。
・出典
宮本武蔵 (三)/吉川英治、孤行八寒、p172,173
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