2015年2月2日月曜日

終着のない試行錯誤 いなほ保育園の十二ヶ月/北原和子 聞き書き 塩野米松

 正直言って驚いた。通常考える園庭も門も塀もそれらしき建物もないのである。こどもたちはたくさんいた。空き地で遊ぶ者、一人で木陰で土いじりをしている子、空き地に積まれた丸太をよじ登っている子どもたち。子どもはいるが先生らしき姿はなかった。
 背の高い生垣の内側にある家屋へ向かった。生意気そうなガチョウが突っかかってくる。向こうではヤギが鳴いている。大きな犬が放し飼いで、柵の向こうにはロバがいる。鼻水を垂らした子がしゃがみ込んでアリの列を追っていた。ガラス戸の向こう、布団を敷き詰められた部屋で子どもたちが昼寝をしていた。
 (中略)敷地内には大きな木や茂みがあり、山があり、凹んだところがあり、どこにも危険を避けるという配慮はない。
    夏は暑く、冬は寒く、よく言えば自然を丸ごと受け入れた、野放しに見える風景だった。
 (中略)この環境こそが「いなほ」にとって大事なもので、長い時間の積み重ねと試行錯誤の末に至ったものだとわかるのだが、これさえも変化の過程であり、終着などないのだと聞かれて、子どもたちに真剣に付き合うというのはそういうことなのだと心にしみ入った。
   インタビューが始まった。
   「私は理論なんか話せませんよ。実践者ではありますが、保育がどうだとか話すことなんかできませんから。とにかく子どもはみんな毎日変わっていくし、一人一人が全く違うんですから、言葉で簡単になんか話せません。」

・出典

北原和子さんといなほ保育園ー聞き書き者まえがきー、iii,iv

「言葉で簡単になんか話せません」この一言は感心しました。なんでも言葉にして伝えることが大事だと思われていますが、言葉にできないこともたくさんあるということを改めて考えました。

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