2015年2月3日火曜日

世界の見方を変える 仕事道楽 スタジオジブリの現場/鈴木敏夫

 ベイルマンに『沈黙』という映画がある。公開当時、芸術か、猥褻か!? と話題騒然になった映画だ。当時、ぼくらは高校一年生。十八禁の映画なので、鑑賞は指をくわえて我慢するしか無かったのだが、仲間の内の誰かが言い出した。
 「予告編なら見ることが出来る!」
 こうして、ぼくらはひょんなきっかけで『トム・ジョーンズの華麗な冒険』を見ることになった。動機は不純。なにしろ、添え物の予告編を見るのがテーマだった。しかし、この映画がその後のぼくの人生を大きく変える映画になったのだから、人生は奥深い。ある青年の恋と冒険を描いたコメディ活劇だが、ぼくはこの主人公に夢中になった。寛大に正直に生きる主人公の生き方に、ぼくは大きな影響を受けた。
 同じころ、日本では、植木等の「だまって俺について来い」という歌が巷に流行っていた。歌詞の一部を紹介しよう。

 金の無い奴ァ 俺ンとこへ来い
 俺もナイけど 心配すんな
 見ろよ 青い空 白い雲
 そのうち 何とか なるだろう。

 時代は高度経済成長のまっただ中。日本人は働きバチと化し、アタマがおかしくなり始めていた。そんなときに、植木等の歌ったこの根拠の無い自信に満ちた歌が日本人を救った。そのうち何とかなるだろう。このフレーズをみんなが口ずさんだ。
 ある映画が人の一生を決定し、ひとつの歌が世界の見え方を変える。そういう仕事をしてみたい。おぼろげながら、未来が垣間見えた瞬間だった。今回、調べてみてわかった。いずれも一九六四年、五◯年前の出来事だった。

 二◯一四年五月
鈴木敏夫


・出典
仕事道楽 スタジオジブリの現場/鈴木敏夫、新版のはじまりに

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「何とか なるだろう」で何とかなる世の中だったら、生きるのがどれぐらい楽か。そんな夢見ていないで現実見てしっかり働けと言われてしまいそうです。まぁセコセコしないで生きていけらたいいですね。

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