2015年2月4日水曜日

「千と千尋」のきっかけはキャバクラの話 仕事道楽 スタジオジブリの現場/鈴木敏夫 

 『千と千尋』。アカデミー賞受賞の話題も一段落して、ようやく雰囲気が落ち着いてきたときに、宮さんがいつになくしんみりと、ぼくにこう言った。「きっかけは鈴木さんのキャバクラの話だったよね」。一瞬とまどいました。「何でしたっけ?」ぼくはすっかり忘れていたんですが、知り合いの青年にキャバクラ好きがいて、彼が言うには「キャバクラで働く女の子はどちらかといえば引っ込み思案の子が多く、お金をもたうために男の人を接客しているうちに、苦手だった他人とのコミュニケーションができるようになる。お金を払っている男のほうも同じようなところがあって、つまりキャバクラはコミュニケーションを学ぶ場だ」と。ぼくはこの話がおもしろくて、宮さんに話したことがあったんです。それが『千と千尋』のモチーフになったと言う。
 たしかに、主人公の千尋はとんでもない世界に放り込まれて、いやおうなく周りとつきあわなれけばいけない。そのなかで彼女のコミュニケーション能力が成長していくわけです。また、重要なキャラクターであるカオナシは、思いの伝え方がわからず暴れてしまうわけで、裏返しの関係です。宮さんはキャバクラの話がおもしろいなあと思って、ずっと覚えていた。それがイメージの核になっていったというわけです。

・出典
仕事道楽 スタジオジブリの現場/鈴木敏夫、4 宮崎駿の映画作法、p65,66

・関連場所、商品
鈴木敏夫

宮崎駿

 この話を聞いて思い出した事柄が一つ。大前研一さんの言葉で、「人間が変わる方法は3つしかない。1番目は時間配分を変える。2番目は住む場所を変える。3番目はつきあう人を変える。この3つの要素でしか人間は変わらない」と仰っています。
 千尋も同じようにそうならなければならない環境に陥ると、いつのまにかその環境に適応していくというものです。「獅子の子落とし」ぐらい厳しいですが、これは親に落とされているので自分の意思はそこに入っていない。自分の意思で谷に落ちていくことは躊躇しがちですが、所さん風に言うと「それさえ楽しんじゃえばいいよ」といいそうな気がします。

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