2015年2月4日水曜日

プロに出会えるプロになれ お客さんではなくファンができる経営/浅野悦男

 「自給自足で生きようというのなら自己満足でもよい。でも、農業が仕事なら、一人でも多くの人に食べて欲しい、答えが戻ってくることを望むのなら、人から売って欲しい、俺に売らせろと言われるような野菜を作らねばだめだ。買ってくれと頼まねばならない物ではだめなんだ」と浅野さんはいう。 
 作れるだけの農民から、浅野さんをお客さんを意識する者に育て、値段と言うものが品物だけの値段ではないことを教えたのは一人の仲買人だった。 
 「俺は浅野君のイモを買ってる時にイモ見て値段付けてるのじゃないよ」 
 浅野さんが若い頃に出会った神田市場の仲卸にいたKさんという特攻隊あがりの仲買人の言葉だった。そして、その人はこう続けた。 
 「浅野君が今年のイモにどれだけの思いを込めて作ったか、何をやってきたかを見て買っているのだ」 
 イモを出荷しなければならないのに火事で消防に出なければならないことがあった。荷造りは中途で止めざるをえなかった。後の作業を父が引き継ぎ、イモを詰めて出荷した。すると翌日、電話が入った。 
 「イモが違う」 
 イモは同じでも、俵の詰め方が違っていたのだ。その人は俵を開けただけで浅野さんの仕事ではないと判断した。作って出荷する人の考え方や気持ちが俵の詰め方に現れる。売っているのはイモだけではないのだ。 
 事情を話して理解して貰った。そんな風に自分を見抜いている、見つめてくれている取引相手がいることに気付かされ、そしてそれに感激もした。
 Kさんは必ず浅野さんのイモを買い、だから他の人は手を出さなかった。それを知らぬある業者が浅野さんのイモを夜のうちに持っていってしまったことがあった。 
 すでにお客さんにも話を付けてあるKさんは、日頃イモの品質チェックに使うナイフを持ったまま、その業者を市場中追っかけ回してしまった。それが警察沙汰になり、Kさんはクビになってしまった。それ以来Kさんには会っていない。 
 農産物の価格というものはただ競売で競り合って値段が付くだけではないのだ。買う人はそこまで考えて買ってくれている。プロの目に答えられる物を作ろうとする者だけが、プロの買い手に出会い、そして教えられ、また、伝え合えるのだ。農家はプロに出会わなければ駄目なのだ。また、出会う努力が必要なのだ。


・出典
【農業経営者ルポ】お客さんではなくファンができる経営

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結果、プロレベルの仕事をしていれば、本物のプロの方と出会い、引き上げてくれるということでしょうね。結局、自分の価値、力を磨くこと以外、やることはないのかもしれません。

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