竜馬は、三百年威張りちらした正体が、これか、と思った。
(中略)江戸をまもるべくして三百年、将軍のお膝元に駐在しつづけてきた旗本八万騎である。幕府は、黒船警備に大名の力を借りようとするばかりで、直参という直衛兵団をつかわない。使えないのだ。旗本御家人はどれもこれもその日を食うのが手いっぱいの家計で、武具、馬具、家来をそろえて出陣できる金などはまるでなかった。
「武市さん、大公儀といっても、存外たいそうなものではないな。かんじんの御直参のお尻がもちあがらないじゃないか」
「しっ」
謹直な武市は、町郷士そだちの竜馬のこういうところがこまる、とおもった。武士のくせに権威を畏敬する心がうすく、例の餅の一件とおなじで、ものをみる眼が平明過ぎるのだ。
(とにかく竜馬には、畏れ入りまする、というところがない)
・出典
竜馬がゆく 一 /司馬遼太郎、黒船来、p115,116
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ピンチの時にその人、組織の本性が出る。また、ものがよくみえ、思ったことを素直に表現する人は、衝突を生むかもしれないが、よりよい方向に進むためには必要な人物なのかもしれない。
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