(主人はいるか)
と訊かれたが、生憎不在なのでその由を職人が答えると、
(頼みたい研物を持って来たのだが、比類ない名刀だから主がいなくてはちと不安心だ。いったいお前の家では、研や装剣の仕事にかけて、どれほどの腕があるのか確かめてからのことにしたい。-なにかここの主の研いだ物があるなら見せろ)
ということなので、畏まって、然るべき刀を幾口か出して見せると、それぞれ無造作に一見して後、
(つまらぬ鈍刀ばかりをお前の家では手がけていると見えるな。そういう研師の手にかけるのは心もとない。わしが頼むという刀は肩に負っているこの物干竿という名称のある伝来の逸品、無名だがかくの通り摺上もない備前の名作だ)
(中略)
(ひとつ、京都で研がせよう。大阪はどこの刀屋を覗いても、雑兵のもつ数ものばかり荒砥にかけておる、イヤ邪魔をした)
と、涼しい顔をして、さっさと立ち去ってしまったというのである。
・出典
宮本武蔵 (二)/吉川英治、物干竿、p355,356
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目に見えないところの努力は必ず、仕事、人相に出てくると信じてやっていくしかないですね。反対に目に見えないことろで怠けているとそれも出てくるんでしょうね。
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