2015年2月15日日曜日

親切と悪事 竜馬がゆく 一 /司馬遼太郎

「こんな所から足をぬくがいい。仇討ちをするために遊女となったというのは、理にあわないな。泉下のおやじどのが、そういうあんたをよろこぶかどうか」
「弟がわずらったために仕方がなかったのでございます」
「おれは一介の諸生で金はないが、いったいどれほどの金があれば世間へもどれるんだ」
「・・・・・・」
 女は答えない。いったところで詮がないとおもっているのかもしれない。
「九両もあればいいものかね。九両ならおれ、持ってるんだ」
 竜馬はふところに手を入れ、胴巻きをさぐったが、さっき藤兵衛にあずけてしまったことに気づいて、やめた。ひどくあどけない顔つきになている。
 冴はくすくす笑って、
「あの、九両ではとても。でもそんなことをして頂くのは、いやでございます」
「そうかな。それもそうかも知れん。過度の親切というのは悪事とおなじだというからな」

・出典
竜馬がゆく 一 /司馬遼太郎、朱行橙、p146

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黒船来 竜馬がゆく 一 /司馬遼太郎

 竜馬は、三百年威張りちらした正体が、これか、と思った。
 (中略)江戸をまもるべくして三百年、将軍のお膝元に駐在しつづけてきた旗本八万騎である。幕府は、黒船警備に大名の力を借りようとするばかりで、直参という直衛兵団をつかわない。使えないのだ。旗本御家人はどれもこれもその日を食うのが手いっぱいの家計で、武具、馬具、家来をそろえて出陣できる金などはまるでなかった。
「武市さん、大公儀といっても、存外たいそうなものではないな。かんじんの御直参のお尻がもちあがらないじゃないか」
「しっ」
 謹直な武市は、町郷士そだちの竜馬のこういうところがこまる、とおもった。武士のくせに権威を畏敬する心がうすく、例の餅の一件とおなじで、ものをみる眼が平明過ぎるのだ。
(とにかく竜馬には、畏れ入りまする、というところがない)

・出典
竜馬がゆく 一 /司馬遼太郎、黒船来、p115,116

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ピンチの時にその人、組織の本性が出る。また、ものがよくみえ、思ったことを素直に表現する人は、衝突を生むかもしれないが、よりよい方向に進むためには必要な人物なのかもしれない。

2015年2月14日土曜日

勝利と淋しさ 宮本武蔵 (三)/吉川英治

 -勝った。
 武蔵は、心のうちで、自分へ凱歌をあげてみる。
(-吉岡清十郎に、おれは勝った。室町以来の宗家、あの名門の子を、おれはたおした)
 だか、彼の心は、すこしも歓んではないのである。彼は、俯向きがちに、野を歩いていた。
 (中略)
 勝った後のさびしさ-というのは、賢い人たちの俗世的な感傷である。修行中の兵法者にはない言葉だ。けれど武蔵は、たまらない淋しさにつつまれて、果てなき野を独りあるいている。

・出典
宮本武蔵 (三)/吉川英治、枯野見、p270

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未熟な私には全然わからない感覚です。